「売建住宅」の紛争と解決事例

 下記の事例は,当事務所が相談を受けて事件を受任した,売建住宅の紛争解決事例です。

1 売建住宅とは

「売建住宅」(うりたてじゅうたく)とは,業者が宅地を分譲する際に,同時に宅地の購入者がその宅地に建設する住宅をその分譲業者に発注して建てられた住宅をいいます。「建売住宅」(たてうりじゅうたく)の建築主が不動産会社であるのに対して,「売建住宅」は宅地の購入者が建築主となって,その不動産業者などに工事を発注し,新築住宅を建てます。

「売建住宅」は,宅地の購入者が自分で工事を発注して新築建物を建てるので,設計などの自由度が高いと言われています。他方,売主にとっても土地を売るだけでなく,宅地上の建物の工事も請け負うので1件あたりの利益が大きくなるというメリットがあります。

2 本件「売建住宅」の概要

 売主(Y)は都内の土地を前所有者から購入し,4区画に分けました。そして,その内の1区画(120㎡)をXに「売建住宅」として売り,Xから請け負って,その区画に2階建ての建物(床面積は1・2階合わせて約100㎡)を建てる契約をしました(令和2年)。

土地の売買価格は約5700万円,建築請負契約の工事代金は約1500万円。XがYに支払う手付金は100万円。Xが仲介業者(Z)に支払う仲介手数料は130万円。

Xが買った土地の東側には隣の住宅がありましたが,東側の隣地は約4メートル高い土地でした。隣地側に高さ4メートルほどの擁壁(コンクリートブロック)とアルミフェンスがあって,その向こう側に隣家の建物が建っていました。

3 契約後の状況

 契約後1ヵ月程経った頃,Xは本件土地の状況を見に行きました。このとき,Xは,東側の当方の土地内に,Yが境界壁としてコンクリートブロックを積む工事をしているのを見ました。

境界の東側には隣家が造った擁壁(コンクリートブロック)+アルミフェンスがあるのに,その内側にもう一つ擁壁を作っていたのです。

Xは,そんな話は聞いていなかったので仲介業者Zに聞きました。Zの説明によると,当方も擁壁を作る必要があるので,敷地境界から20㎝入り込んだところにコンクリートブロックを2mの高さまで積み上げるという話でした。当時,建物の新築工事はまだ始まっていませんでした。しかし,新たに擁壁を作ると,新築建物と新しく造る擁壁との間にはわずかな空間しか残らなくなります。

Xは,人づてに聞いて,アルタイル法律事務所に法律相談をしました。

4 法律相談とその後の対応

 アルタイル法律事務所では,この法律相談を受けて,「不動産売買契約書」と「建設工事請負契約書」,未確定の建物配置図(各階平面図),「重要事項説明書」,「一般媒介契約書」,不動産(土地)登記情報,地図に準ずる図面などを,確認しました,また,弁護士が実際の状況を確認するため,直近の日にXさんと現地へ行って写真を撮り,区の建築指導課へ連絡して,建築確認の状況などを確認しました。

 その結果,次のことが分かりました。①隣地の既存擁壁は建築確認がされておらず,また隣地擁壁の底盤が当方土地に越境しているため,当方の土地に擁壁を作る必要がある。②当方の土地内に新たな擁壁を作った場合,建物と擁壁の間にどれくらいの空間が確保されるか未確定の建物配置図で確認したところ,新築建物東側の外壁と擁壁の距離は25㎝,開口部と擁壁の距離はわずか20㎝しかとれない。③Yは北側隣地の擁壁の底盤が当方土地に越境していることは説明していたが,東側隣地の擁壁の底盤が当方土地に越境していることは,Xに全く説明されていない。④本件土地内に新たな擁壁を作ると土地の有効面積が約5㎡減少する,などが確認されました。

 アルタイル法律事務所は,相談を受けた二日後に,相手方Yに通知書を送り,上の理由から,二つの契約を解除の意思表示をし,手付金100万円の返還を請求しました。

 この通知書に対し,さらに数日後,仲介業者Zから弁護士あてに「契約の合意解約に応じる。手付金100万円は返還する。」という連絡が入りました。その後,解約合意書のやり取りをして,弁護士が事件を受任した1ヵ月後,100万円の返金がされました。

5 このケースのポイント

 本件のような「売建住宅」の契約は,契約を締結後,売主側は,土地の整備,建物の建築確認,建物の建築工事を進めて行きます。契約時に分からなかった土地や新築建物の不具合が徐々に分かってきます。

 買主・建築主は,売主・工事請負人から十分な資料を受け取るようにし,その資料を確認し,また現地へ行って状況を確認することが重要です。不審な点や不具合があったら,それを放置しないで確認します。かなり問題があると感じられ,契約を続けた方がよいのか契約を解除した方がよいのか判断したいと考えたら,躊躇せず,専門家に相談することが大切です。

 専門家が相談を受けた場合,契約関係やその実情を正確に把握し,現地も確認して,直ちに対応する必要があります。本件ではXさんが契約書などの関係資料を法律相談の段階で用意されていたので,その資料を読み解き,現地を確認してすぐに対応することができました。

 本件で,Xさんは,現場の状況を見て,早い時期に土地の問題に気づき,専門家に相談して契約を解除するという意思表示をしました。売主・工事請負人側も,Xさんが早い時期に契約解除の意思表示をしたため,早期に,契約を白紙に戻した方がよいと判断し,契約解除,手付金返還に応じました。すばやい対応が,早期解決につながったのです。