借地借家の法律関係5 – 借地非訟(2)

前回のコラムでは,地主が建替えや修繕,借地権の譲渡等について,承諾してくれない場合や,承諾自体はしてくれそうだが承諾料の額についてどうしても合意ができない場合,そもそも話し合い自体に応じてくれない場合等に,借地人の立場にある人がとることのできる手続として,借地非訟手続が用意されていることをご紹介しました。

  それでは,具体的に,借地非訟手続で取り扱うことのできる事件の種類とは,どのようなものがあるのでしょうか。

 借地非訟手続において取り扱うことのできる事件の種類は,借地借家法に規定されており,以下の5種類があります。

①借地条件変更申立事件(借地借家法17条1項)

 借地契約において,借地上に建築できる建物の種類や構造,規模,用途といったことを定めている契約条項を変更することにつき,地主から承諾が得られない場合,地主の承諾に代わる許可の裁判を申し立てるものです。

  たとえば,借地人が,借地上に所有している木造の建物を,鉄筋コンクリートのマンションに建て替えたいと考えたときなどがこれに当たります。

 ②増改築許可申立事件(借地借家法17条2項)

 借地契約においては,ほとんどの場合,借地上の建物の建替え(改築)・増築・大修繕等をする場合には土地所有者の承諾が必要であると定められています。

 このような場合で,借地人が物の建替え(改築)・増築・大修繕等をしようとしても,地主の承諾が得られない場合に,地主の承諾に代わる許可の裁判を申し立てるものです。

③土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件(借地借家法19条1項)

 借地人が,借りている土地の賃借権を譲渡したり,または借りている土地を転貸したりしようとするときは,土地の所有者の承諾を得る必要があります(民法612条)。

 このような場合で,借地人が,地主の承諾が得られない場合に,地主の承諾に代わる許可の裁判を申し立てるものです。

 たとえば,借地人が,借地上に所有している建物を売却しようとする場合も,建物の売却に伴ってその借地の賃借人も交代することになりますから,この借地非訟手続によることになります。

④競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(借地借家法20条1項)

 競売又は公売手続で借地上の建物を買い受けた人は,これに伴ってその借地の借地権も譲り受けることになりますから,この借地権の譲受けについて土地所有者の承諾を得る必要があります(民法612条)。

 このような場合で,土地所有者の承諾を得られない場合に,借地上の建物を買い受けた人が,土地所有者の承諾に代わる許可の裁判を申し立てるものです。

⑤借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件(借地借家法19条3項,20条2項)

 ③の土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立て,または④の競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立てがされた場合,土地所有者は,自ら土地の賃借権を借地上の建物と一緒に優先的に買い取ることができる「介入権」と呼ばれる権利を行使することが認められています。

地主が,この介入権を行使する申立てを裁判所が定めた期間内にすれば,原則として,土地所有者が借地権者の建物及び土地の賃借権を裁判所が定めた価格で買い受けることになります。

 (介入権の詳細は,次回のコラムで触れます。)

 なお,賃料の増額については,借地非訟手続で行うことはできません。

前々回のコラムでも触れたとおり,地主が借主に対して地代の増額を請求したものの,話し合いで合意に至らない場合は,まずは賃料増額の調停を申立てることになります。

(地代・賃料の値上げに関する手続の詳細は,「 借地借家の法律問題(3) 」をご覧ください。)

 当事務所においては,代表弁護士藤井篤が土地・建物の問題を含めた住宅事業専門の生協において理事も務める等,土地・建物の法律問題を長年多く扱ってきました。

 現在でも,貸主側,借主側の双方で多くの借地借家関係のご依頼を受け,交渉・訴訟・非訟等の様々な事件を受任しております。

 借地借家の問題でお悩みの方は,是非ご相談ください。